予防医学と統合医療

予防医学を包括した更に広い解釈に「統合医療」というものがあります。統合医療には厳密な定義はありませんが、一般に近代西洋医学(医療)の領域外のすべて(伝統医療や通常医療と見なされていないヘルスケアシステムなど)の医学や医療の総称で、「近代医学とその他の療法を組み合わせて行うもの」として世界的に波及し、日本では2000年頃からこの概念が広まり始めました。

世界的にこの概念が具現化していく中、厚生労働省でも2012年から「統合医療の在り方に関する検討会」を立ち上げ行動指針を検討すると共に、統合医療に係る情報発信等推進事業として2014年には「統合医療情報発信サイト」が開設され、様々な団体・組織による考え方を紹介しています。

当協会が推進する予防医学の解釈を拡大すると、健康を保持し、更に心身の病気を予防、診断、改善、治療することの具現化に通じることであり、医療の領域外すべてを包括する統合医療の概念へと導かれるものであると考えまていす。 

一般社団法人 日本統合医療学会による見解

統合医療は、“人”がより健康で幸せに生きることを目的にした医療であり、様々な医療を融合し患者中心の医療を行うものです。
科学的な近代西洋医学のみならず、伝統医学と相補(補完)・代替医療、更に経験的な伝統・民族医学や民間療法なども広く検討するもので、その機能機序により、「医療モデル」「社会モデル」が存在します。

<統合医療に内包される『医療モデル』と『社会モデル』>

米国国立補完統合衛生センターによる定義と分類
統合医療を「従来の医学と、安全性と有効性について質の高いエビデンスが得られている相補(補完)・代替療法とを統合した療法」と定義する。
また、相補(補完)・代替療法については、「一般的に従来の通常医療と見なされていない、さまざまな医学・ヘルスケアシステム、施術、生成物質など」と定義し、具体的には、以下のような分類をしています。

<国立補完統合衛生センターによる分類>2014/2/15発表時

世界保健機関(WHO)による「伝統医療」の定義

「それぞれの文化に根付いた理論・信心・経験に基づく知見、技術及び実践の総和であり、健康を保持し、更に心身の病気を予防、診断、改善、治療することを目的としている。」としています。

厚生労働省 厚生労働科学研究事業

以下の表は、2010年度 厚生労働科学研究「統合医療の情報発信等の在り方に関する調査研究」で採り上げられた療法について、効果の有無を問わず整理したものです。

<近代西洋医学と組み合わせる療法>

※『これまでの議論の整理(2013年2月「統合医療」のあり方に関する検討会)』より抜粋

漢方医学に関する補足説明
※現在、大学での医学教育として、漢方薬に関する教育が実施されています。
※日本医学会の分科会として、日本内科学会などと同じく、日本東洋医学会があり、専門医制度が設置されています。

日本における統合医療

明治維新以前までの日本は、西洋医学に類しない漢方医学や鍼灸治療などを基にした東洋医学による伝統医療が行われていました。
しかし、維新以後には西洋医学が急速に導入され、日本の伝統医療は衰退していきました。但し、昭和以降になって一部の伝統医療の復旧を望む動きが起こり、漢方治療、鍼灸治療などは存在し続けています。
明治以降の大学における教育・研究は西洋医学に基づいて行われたため、医師の資格を持って医療を行う者は西洋医学医療を行い、漢方医や鍼灸師など日本伝統医療の流れを汲む者とは一般に相互の交流はなく、今日まで両者は並存している状態が続いてきています。しかし、以下のような統合を意図した動きも出ています。

● 昭和58年(1983年)に、鍼灸を専門に研究する初の四年制大学である明治鍼灸大学が設立され(現、明治国際医療大学)、1990年代の同学のスローガンとして「中西医結合」が掲げられています。

● 「国際統合医科学研究・人材育成拠点の創成」と題するプログラムが2005年度の文部科学省科学技術振興調整費「戦略的研究拠点育成プログラム」(通称:スーパーCOE)に東京女子医科大学が申請し採択されたことから、これに基づき国際統合医科学インスティテュート(IREIIMS)が設立され、東京女子医科大学大学院に統合医科学分野が置かれ、医療従事者を対象とするチーム制統合医科学育成コースが設立されました。

● 東京女子医科大学付属東洋医学研究所では、医学生・医師への漢方治療・鍼灸治療の診療を、東京女子医科大学附属青山女性自然医療研究所では、気功治療、ホメオパシーなどの診療をおこなっています。

● 今日では、日本統合医療学会(IMJ)、日本補完代替医療学会(JCAM)、日本統合医療系連合学会(JUAI)などが、統合医療の実現のための教育、研究などを進めています。

統合医療は、西洋医学に補完代替医療を加えることによって、未病からの病気の超早期発見や予防、根治、健康維持の増進などを目指し、医療費の削減効果が期待されています。 

他方、日本では通常の西洋医学による医療は健康保険で賄われますが、代替医療の大部分は健康保険が適用されません。合医療は西洋医学と代替医療の併用を行うため、保険診療と自由診療(保険外診療)を併用する混合診療となるのが理想ですが、「無制限に保険外診療との組み合わせを認めることは、不当な患者負担の増大を招く恐れや、有効性、安全性が確保できない恐れがある」として厚生労働省では2020年3月時点でも混合診療の無制限適応は認められていません。< 厚生労働省サイト参照:保険診療と保険外診療の併用について

但し例外として、専門家の検討を経た診療行為などに限る「保険外併用療養費制度」の枠組みの中では一部認められています。これは、医療技術の進歩や患者のニーズの多様化に対応するために、保険適用外の療養を受ける場合でも、一定の条件を満たした「評価療養」と「選定療養」については保険との併用が認められ、保険のワクを超える部分についての差額は自己負担しますが、保険が適用される療養にかかる費用は保険診療に準じた保険給付が行われるというものです。< 保険外併用療養制度について_PDF